百マス計算でバカになる-常識のウソを見抜く12講座-

百マス計算でバカになる (光文社ペーパーバックス)

百マス計算でバカになる (光文社ペーパーバックス)


この本の内容にそんなに価値はない。これらの常識のウソに、個人レベルではみんなわかっている。けど、それを社会レベルの認識にしなければいけない。それこそが日本の抱える困難な問題だ。著者はその解決ができる立場にいて、応援もされていたが、屈してしまった。「ゆとり教育」推進者でマスコミに負けた元キャリア官僚、根拠薄き不満の書。

日本の教育は子どもを勉強に駆り立てる手段として、測ることと比べること、すなわちテストと順位を大いに利用してきた。ところが、成長社会に限界が生じて成熟社会への変化が求められる「競争から共生へ」の時代になると、それだけでは子どもの学習意欲を保てなくなる。そこで、一人ひとりの興味・関心、能力・適性に応じて学習を深めていけるようにする新しい教育システムが導入されることになった。ただ、それが手っ取り早く一律に知識を詰め込む従来のシステムに比べ、短時間で見た目の学力を向上させるように思われなかったこと、また大勢が同じことに黙々と取り組む従来型の熱心な勉強態度には見えなかったこと、などの理由から「ゆとり教育」のレッテルを貼られ、批判の的となってしまった。(p.25)

画一教育にヒット商品は出るが、ゆとり教育総合学習は多様性が基本なので、ヒット商品は出ない(p.27)

今日のように集客効果があるという時代ならともかく、江戸時代の祭りは自分たちが楽しむためにやっていた。そういうもので心のバランスをとっていかないと、経済的に貧しい状況には耐えられない。 ― 日本が文化の国になるべきだというとき、経済官僚は、日本がアニメや漫画を輸出してカネ儲けすることだと思ってしまう。そうではない。要するに、カネも力もなくなっていく時代には文化的発想を豊かにしていくしかない。(p.32,33)

大阪府補助金を支出している4つの交響楽団についても、橋下知事は見直しを宣言した。大阪センチュリー交響楽団が年間4億2000万円、大阪フィルハーモニー交響楽団が6800万円、あとの大阪シンフォニカー交響楽団関西フィルハーモニー楽団には100〜150万円だという補助金内容が明らかになると、それら4つの楽団の在り方について、音楽ファンまで含め真剣な議論が始まった。単に「音楽の灯を消すな」式の感情的な議論でなく、公的補助を受ける考え方や地域住民の責任というところまで突っ込んだものになっている。(p.40,41)

「国の借金」は2007年度末時点で849兆2396億円。ところが東京の人はその現状を理解していない。いまだに成長と繁栄の20世紀気分でいる。新東京タワー六本木ヒルズという巨大建造物で盛り上がるというのは、まさに20世紀。東京は日本でいちばん遅れている。(p.42)

天皇は)立憲君主制の中での立憲君主という役割でしかなかった。ではなぜ「天皇は神だ」「国民は天皇のために死ななければならない」ということになったのか。(中略)それがどうやって広まっていくかというと、隣の町内会でやってるから、うちもやったほうがいいんじゃないかとか、うちだけやらなかったら、あとで何て言われるかわかったものじゃないかといった空気ができてしまう。いじめ問題のときに見られる同調圧力と同じだ。(p.55,61)

学問を大別すると自然科学、社会科学、文学の3つがある。それぞれがかかわり合うことは大事だが、互いが対等独立でなく何かが何かを支配するようになると問題がある。戦争に突入するときに、なぜ日本人が好戦的な気分に支配されたかといえば、本来は社会科学で行うべきことが、文学で語られるようになったからである。(p.63) 戦前の「鬼畜米英」「日本の聖戦」という話だって、政治家、マスコミ、文化人が最初に言ったのだ。それを読んだ一般の人が、そうだ、そうだ、鬼畜米英だということになっていく。(p.89)

いまの時代に「穀潰し」はいない。年寄りだろうと病人だろうと障害者だろうと、「穀潰し」ではない。生活保護をもらっている母子家庭の母親は「穀潰し」だろうか?いや彼女は子どもを育てるという仕事をしている。仕事の意味は、どこかに言って給料を得るだけとは限らない。江戸時代のような貧しい時代ではないのだから。(p.139)

小泉改革の残酷な副作用は、総合学習などの価値観の多様化を是認する教育がセーフティネットとしてもっと早くから機能していれば、フォローできたかもしれない。勝ち組・負け組を作る経済政策を実施するというのなら、「経済面で負け組になっても私は幸せ」と思うような文化的なものの考え方を育てない限り、無差別殺人のような突発的な事件は起きる。(p.192)

後期高齢者医療制度の問題も含め、医療や福祉の予算を若者が負担するか、年寄りが負担するかといった議論になっているが、実は財源はほかにも考えられる。たとえば道路財源をやめるという選択をし、医療や福祉に充当すれば、若者の痛みも年寄りの痛みもやわらぐ。(p.194)

メディアは価値観を絞ることで成り立つ商売だ。(p.207)

情報リテラシーはどうやったら身につくかと聞かれるが、答えはシンプル。「できるだけ多くの情報に当たれ」なのだ。(p.210)

特進制度があるのは自衛隊や警察だけだ。つまり、殺された外交官2人は無理やり2階級特進をでっち上げられた。世論を動かすために小泉政権がやったが、日頃政府に批判的なメディアですら異を唱えなかった。2人の詩を無駄にしないというストーリーができあがり、騒ぎ立てたのはマスコミであり、それに乗った私たち一般庶民だった。こう考えていくと、自衛隊イラク派遣は私たち自身が望んだことだったとも言える。(p.214,215)